丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」中巻を読む
世に蔓延る嫌な風景を思うままに並べ、最後に「お盆前の雑草のごとくほとんど無制限にはびこっていった」と締めくくる。
嫌なことが書いてあるのに、思いも寄らない表現なので、どこか言葉を楽しみながら読むことができる。
突拍子もない言い方が最後に「お盆前の雑草」というドンピシャの、生活感にあふれる文で終結すると、「そうだなあ」と思わず納得する。
「おはぐろとんぼ夜話」は慣れるまでは読みにくいかもしれないが、慣れてしまうと詩のように次々とイメージが連なっていくのが楽しい。散文の醍醐味を感じる作品だと思う。
人生の舞台の中央に集光する
からかいの言葉にも似たどぎつい輝き……
肉体に縛りつけられていることが原因の
ひどく恥さらしな試練……
防潮林のごとき地味な役回りに甘んじている
心の安全弁の腐朽……
生き抜くためならなんでもござれの
度を越した善悪の逸脱……
結果的に魂を誤らせることになる
どこまでも欲望の流れに沿った放言……
そういったものが
お盆前の雑草のごとく
ほとんど無制限にはびこっていった…
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」中巻488頁)