丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻を読むー屋形船の放つ怒りに心ざわついてー
屋形船おはぐろとんぼは川をくだって、うつせみ町にさしかかる。
うつせみ町の様子に向ける、おはぐろとんぼの怒りの言葉の数々を読んでいると、うつせみ町とは今の日本そのものではないか……と思えてくる。
つまり、丸山先生が現代の日本に向けて放つ怒りの言葉なのだ。
最近好まれる文学は「わかりやすい」「共感できる」「心地よい」ものが多い気がするけれど、私は怒りの矢をドンピシャで放って、怒るべき状況をかわりに表現してくれる文学の方がいいな……。
でも怒りを含んだ文学はとても少なくなってきている気がする。
根拠が薄弱な悪税に苦しんでも
正面切って異を唱える度胸を示そうとはせず
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻44頁)
国民の最大の共有財産たる戦争放棄の憲法が蔑ろにされ
民主的で平和を愛する国家から
侵略的で帝国主義的な強国へ乗り換えようとしている
まさにこの時において
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻45頁)
自由と平等の全否定にほかならぬ国家権力に対し
怒りのかたまりとなって突進して行く者は皆無であり
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻45頁)