丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻を読むーおはぐろとんぼが語る自然にどこか異界感がある理由を考えるー
古びた木造の屋形船おはぐろとんぼが語る周囲の自然。
それは人間の目に映る自然とはどこか違う、この世のものではない感じがどこかする。
見慣れた風景が、言葉の力によって異次元のものに見えてくる……のが丸山作品の魅力と思いつつ、なぜ?と読む。
昼といわず夜といわず
偶然に満ちた生命の営みにきびきびした態度で臨み
深い味わいにあふれて
ほろ苦い色調を帯びた大自然は、
物の道理を闡明してくれそうな青雲をたなびかせる天空の隅々までもが
魔道のごとき雰囲気をかもし
次々に図星を指しつづけることによって
瀕死の生き物に立ち直らせる隙を与えず
(丸山健二「おはぐろとんぼ」下巻121頁)
「昼といわず夜といわず」のリズム感、「きびきびした態度」の躍動感が自然の鼓動を伝えてくる。
「深い味わい」「ほろ苦い色調」という言葉に、自然の奥行きへと心が誘導されてゆく。
「物の道理を闡明してくれそうな青雲」「魔道のごとき雰囲気」で、私たちがイメージしたこともないような妖しい自然のイメージが、むくむくと湧き上がってくる。
「次々に図星を指しつづける」不思議な光景が見えてくるのは、人ではない「おはぐろとんぼ」ならでは。
「瀕死の生き物」で「生」と「死」のイメージが喚起されてゆく。
この世のものではない……に連なるイメージを積み重ねてゆくことで、屋形船おはぐろとんぼから、ここにあるんだけど、どこか違う世界の存在を教えてもらう気がする。