丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻を読むー擬人法について考えるー
いぬわし書房のオンラインサロンで擬人法についての質問があった。
丸山先生が擬人法を考えるきっかけになったのは、カメラいじりから。
レンズを変えるように、擬人法を使うことで、表現の幅を変えたい、視点の幅を広げたいと思われたそう。
擬人法を使えば、どんな無茶な表現でもいい、生身の人間が語るよりワンクッション置くことになるから読者が受け入れやすい……とか語っていらしたと思う。
屋形船おはぐろとんぼが、船に子連れで転がりこんで、船頭の大男と情事を重ねる女について語る場面を読むと、やはり屋形船が女について辛辣に語っても腹がたたないなあ……とクッション効果を感じる。
またクドクド女のあれこれを説明されるより、ぶっ飛んだ例えの方がイメージが広がってゆく。
屋形船おはぐろとんぼは、女のことを以下のようにけちょんけちょんに言う。でもオンボロ船の独り言と思えば、さらさら頭を通過して、私なりの女のイメージが浮かんでくる。
たとえるならば
白バイに追尾されていることを承知で制限速度を破りつづける
とことん荒くれたドライバー……
たくさんの仕事を抱えこんで往生している部下を
さらに鞭撻して深夜まで働かせる上司……
たちどころに不法占拠の任務を終えて復命する
殺人に卓越した兵士……
厚顔にもひっきりなしに前言をひるがえし
現在の地位に執着する長老……
強情な生を剥ぎ取ろうと
荘重な足取りでやってくる死に神……
(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻173頁)
……私も次回短歌の課題は、関東大震災の検見川事件について川の流れを視点に詠んだのだった……と思い出す。
川の視点だと、重い事件も、人間の愚かさも、何とか文字にできる気がする。私視点だときついものがある。擬人法はまことに偉大なり。