さりはま書房徒然日誌2023年8月16日(水)旧暦7月1日

丸山健二「おはぐろとんぼ夜話」下巻を読むー「どこにでもいるありふれたやつだった」を丸山健二の言葉で語ればー

なんでも知っている屋形船おはぐろとんぼ。
全知全能のおはぐろとんぼが、船頭の大男を語る次の言葉に悲劇の予感。
いつまでも、大男とおはぐろとんぼ……旅が続いていけばいいのに。
そんな思いが覆されるのでは……という気がしてくる。

知人はおろか
神仏にさえ気取られぬように
うつし身の世をそっと抜け出そうとしているとは
とても思えず

(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話』下巻327頁)

おはぐろとんぼが大男を語る言葉。
最近よく見かける小説なら「どこにでもいるありふれたやつだった」と一行で書くだろう。
丸山先生はこれでもかと文を連ね、ありふれたやつ……のイメージを膨らませてくれる。
丸山文学では、言葉からイメージを紡ぎ出す過程がすごく楽しい。

ただ国語の授業でも、ひたすらわかりやすい実用的な文が求められる時代である。
こういう過程を楽しめない人が多くなり、チンプンカンプンの人が多い現状が寂しくもある。

さて、船頭の大男が「どこにでもいるありふれたやつだった」を丸山先生が表現すれば以下の通り。

その所を得てそれなりの花を咲かせる
単純率直な人間の代表にしか見えず、

さらには

手厳しい結論を強引に押しつけたあげくに
ドライアイスのごとき視線でもって最後の一撃を浴びせる
冷淡な観察者……

夜ごと安酒場に集まって陽気に騒いでも
いっこうに眼識を養えないことが容易に察せられる芸術家……

来るべき不幸に思い悩みつつも
ありふれた見解を脱することができない善良な大衆……

満を持して登場した
これに尽きる反逆者……

小賢しいうえに
骨なしときている教育者……

先天的な素質として弁才に長けた
きわめて魅力的な煽動者……

とまあ
そう解釈したくなった

(丸山健二「おはぐろとんぼ夜話』下巻327頁)

巷によくいる奴、しかも嫌な奴。
……をすっぱり語ってくれているからスッキリする。

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