藤原龍一郎「歌集 202X」を少し読む
ー社会への大きな問いかけ、近未来或いは現在を語るSF的物語性に富んだ刺激的な歌にドキリとするー
2020年に刊行された歌集。
現代の日本の状況を糾弾し、読み手に大きく問いかける歌であふれている。
折にふれて頁をひらいては、鈍磨しがちな情けない己に喝を入れたくなる……そんな刺激的メッセージに富んだ歌集である。
短歌がこんなに社会に問いかけてくるものだとは……福島泰樹先生の歌にも、藤原龍一郎氏の歌にもメッセージ性の強さに驚く。
監視されている不気味さのある現代社会を詠んだ幾首かの歌、お洒落だけれど不気味さのある装丁(真田幸治)がとてもマッチしている。
ちなみに真田幸治氏が、こんなに不気味感のある装丁をされるとは思わなかった。でも不気味だけどセンスのいいところは、さすが真田幸治氏だと思う。
以下藤原龍一郎「202X」より引用。
監視社会への懸念、問題意識がひしひしと伝わってくる。
夜は千の目をもち千の目に監視されて生き継ぐ昨日から今日 (11頁)
明日あらば明日とはいえど密告者街に潜みて潜みて溢れ (11頁)
詩歌書く行為といえど監視され肩越しにほら、大鴉が覗く (17頁)
スマホ操る君の行為はすでにしてビッグ・ブラザーに監視されている
(52頁)
反知性、思考停止の隷従の君はビッグ・ブラザーに愛されている (53頁)
上記引用の歌のなかでも、「肩越しにほら、大鴉が覗く」という結句の歌について……。
ポーの大鴉からくるイメージ性で心象風景が広がり、さらに「肩越しにほら」「覗く」で不気味さ、黒いユーモラスが際立つ。
「、」の句点で思わずドキリとする。
不気味だけれど物語性に富んだ歌だと思う。
この歌集については、まだ語りたいことは多々。それはそのうち後日に。