丸山健二「我ら亡きあとに津波よ来たれ」上巻を少し読む
ー「ラウンド・ミッドナイト 風の言葉」(田畑書店)に採られていた言葉を発見!
このフレーズには定時制高校の生徒も惹きつけられていたと思い出す!ー
津波を生きのびた青年が無人の被災地で遭遇した死体。
それは自分のドッペルゲンガーだった。
おのれのドッペルゲンガーを葬ろうとして、もう一人の自分と対話するうちに前向きになってくる……
そんな場面。
さて、この箇所で丸山文学の素敵な言葉を集めた「ラウンド・ミッドナイト 風の言葉」(田畑書店)に採られている言葉を二つ発見。
「罪のうちに埋没する世界」と「おれがおれを生きるのに誰に遠慮がいるものか!」の二つだ。
「ラウンド・ミッドナイト 風の言葉」は弾き語りのthetaさんと言う方が言葉を選び、歌にされている。
thetaさんが歌う「ラウンドミッドナイト 風の言葉」を、いぬわし書房さんが素敵な動画に作成されたものがあった。リンクを下の方に貼らして頂く。
ちなみに、かつてこの歌を勤務していた夜間定時制高校のクラスの生徒に聞かせたことがあった。
生徒それぞれに、心に響く歌のフレーズがあるようだった。
引用箇所の「おれがおれを生きるのに誰に遠慮がいるものか!」と言う言葉は、断トツで定時制の生徒たちの心を捉えていた。
中には、この歌の歌詞に「(丸山先生のことを)尊敬します」ときっぱりと断言した生徒もいた。(非常に辛い過去と現在を生きる、尖った眼差しの生徒であった)
夜間定時制高校の生徒たちは過半数が外国籍の親のもとに育ち、非常にハードな人生を歩んできた者が多い。
そうした生徒たちの心を捉えるとは!と驚いた……。
丸山文学は、アプローチ次第では、厳しい状況の若者の心を捉える力だってある。
難しいと決めつけないで、もっと色々な人が読んでくれたら……と願う。
そこで、
罪のうちに埋没する世界と
墓場へと急ぎ立てる嘆かわしい現状に抗して
自己の生存競争を遂行するという、
生の先頭に立って
独自の価値を熱望する
かくのごとき者を演技しながら
重大な経験によって鈍くなった曇りのない心を四方八方に飛ばし、
ややあって、
どうでもいい古い過去の追憶といっしょに
凡庸にして立派な訓戒のあれこれを視界から遠ざけながら
しこたま毒気を含んだ攻撃的な姿勢に切り替え、
目下推進している事態を正当に評価しつつ
「さあ、なんでもござれ!」
だの
「まさにこの時においてなすべきことをなせ!」
だのという
肉弾戦の先陣を切る者のように雄々しい
おのれ自身の力強いひと声で心を奮い立たせ、
「おれがおれを生きるのに誰に遠慮がいるものか!」
という
古き良き時代の産物である
正当な権利に基づく主張を幾度もくり返した。
(丸山健二「我ら亡きあとに津波よ来たれ」上巻537頁)