教育する前に見えてるかどうか確認することが大切 反貧困ラボからの提言

 

Education | The Abdul Latif Jameel Poverty Action Lab.

視力の悪い中国農村部の小学生たちが眼鏡を利用できるようにしたところ、テストの点数が大幅に増加した。しかし視力の悪い生徒のうち70%しか、無料の眼鏡を利用していない。

 

視力が悪いせいで、教室での指示、読解教材、視覚的補助教材、学習内容の多くが理解できないでいる子供たちがいる。視力の問題は広まっている。発展途上国の小学生のうち10%が視力の問題を抱えているが、それは適切に矯正された眼鏡があれば常に是正されうるものである。しかし、こうした子供たちのうち眼鏡を持っていたり、かけていたりしている子供はほとんどいない。

視力が悪いせいで子供たちは学習能力や意欲に影響をうけ、しかも眼鏡があれば確実に解決されるにもかかわらず、生徒たちに眼鏡を与える効果について調べた研究はほとんどない。眼鏡は生徒の学習を改善できるのだろうか。子供たちに眼鏡を買い与える親がほとんどいないのはなぜなのか。両親は子供たちの視力の問題を知っているのだろうか。もし眼鏡が無料なら受け取るのだろうか。J-PALの会員ポール・グルーエ(ミネソタ大学)はアルバート・パーク(香港科学技術大学)とミン・タオ(早稲田大学)と共に、中国西部で小学校4、5、6年の子供たちに無料で眼鏡を提供してランダマイズ評価法でこうした問いを検証した。

 

・プログラム実施以前、ほとんどの子供たちが眼鏡をかけていなかった。さらに子供たちの13パーセント以上は視力が悪く、プログラム実施以前はこうした視力の悪い子供たちのうち2.3%の子供しか眼鏡を持っていなかった。

・眼鏡のおかげで、視力の悪い生徒は学習結果が改善された。視力の悪い生徒たちが眼鏡を無料で利用できるようにすることで、テストの平均点が標準偏差で0.16と著しく伸びた。実際に眼鏡を受け取った生徒(眼鏡をかけたと仮定して)にとって、テストの点数は標準偏差で0.22上昇した。こうしたテストの点数の改善は、半年の学習期間をもう四ヶ月増やした効果と等しい。

・眼鏡をかけることについての社会基準や誤解のせいで、眼鏡の使用が妨げられている。眼鏡が無料で提供されても、視力の悪い生徒のうち30%が提供を断った。断る理由で一番多いものは、家庭の長に反対されたというものである。こうした反対は、眼鏡の意義や教育における眼鏡の役割についての誤解を反映している。

 

1 評価

 

中国では、それぞれの州の保健所にある疾病コントロール・センターが、視力測定も含めて生徒の身体検査の指揮を任されている。基本的に、こうした計測は毎年すべての生徒におこなわれるべきものであるが、予算やスタッフの制限があるせいで、多くの学校で身体計測は2、3年に1回しか行われない。こうした計測の結果は教師に伝えられ、教師から両親へ結果が伝えられることになっている。

調査員は甘粛省の疾病コントロール・センターと協力して、4年から6年の視力の悪い生徒へ眼鏡を提供する効果を調べてみた。甘粛省での視力への対策プログラムは、永登と天祝の二つの県で2004年から2005年にかけて行われ、165校19000人の生徒が対象となった。13の群区にある103の学校がアトランダムに指定をうけ、眼鏡の提供をうけた。12の群区にある62の学校がアトランダムに抽出され、何もしないで比較するための学校となった。

(対策プログラムとは無料での眼鏡配布・・・校内の検査で視力が悪いと診断された生徒には無料で眼鏡が配布された。眼鏡を受け取った生徒は、このプログラムで雇用された専門の視力測定者から詳細な視覚テストをうけ、学年がはじまるときに眼鏡をうけとった。)

教師は基本となる生徒のデータを集め、学習の特徴をだすテストの点数と視覚の鋭さについてデータを集めた。学年の終わりには、前期、後期ごとの生徒のデータを集め、テストにおける眼鏡の効果を検証してみた。

 

なぜ眼鏡をかける子供たちがほとんどいないのか

 

ほとんどの人々は眼鏡が視力を改善することを理解しているから、途上国の子供たちのほとんどが眼鏡をかけていないことに当惑する。この理由としてあげられるのが両親であるが、子供たちの健康を決めるのに重要な役割をはたす存在にもかかわらず、子供たちの視力に問題があるということを単純に知らないということもある。定期的な視力測定が、低収入の家庭では一般的ではないということもある。それに子供たちには眼鏡が必要だと助言をうけたところで、両親はこの助言を疑こともあるだろうし、眼鏡を買うのにどうすればいいのか適切に対応できないこともある。また眼鏡や教育の価値については、社会規範の影響があるのかもしれない。中国では、眼鏡をかけると子供の近視が早くすすむという(誤った)考えが一般的に受け入れられている。

 

もう一つの理由としてあげられるのが、眼鏡の費用が高すぎるということであり、とくにツケで買わなくてはならない貧乏人にとっては高すぎるのである。中国では、眼鏡は州都に行けば10ドルか15ドルでほとんど入手可能だが、この値段は貧乏な家庭の大半にとって手の届く金額ではないということがある。それに州都へ行くのも難しいものであり、費用がかかるものなのである。ただ眼鏡が無償であるにしても、手近なところで入手できるとしても、両親は子供たちのために眼鏡を受け取るのを嫌がるだろう。もし眼鏡が壊れたり紛失したりした場合、数年後に新しい眼鏡を買わなくてはいけないと考えるからだ。

 

2 結果

 

視力に問題があるにもかかわらず、この実験以前はほとんどの子供たちが眼鏡をかけていなかった。視力測定者によって実施された視力テストは、子供たちに視力検査表を読むように求めるものだが、13.4%の子供たちが視力に問題があることが判明した。しかし、こうした子供たちのうち97.7%がプログラム実施以前は眼鏡を持っていなかった。(表1参照)

 

かなりの数にのぼる子供たちや両親が無料の眼鏡を拒否した。眼鏡は無料で提供されたが、プログラム実施校で眼鏡を調整することに同意したのは視力の悪い生徒のうち70%だけだった。眼鏡の提供を断った主な理由は、家庭の長の反対によるものが31%、子供の拒否によるもの17%だった。視力に深刻な問題がない子供たちは、眼鏡をかける理由がないと眼鏡を断る傾向にあった。眼鏡を受け取った女子は66%であり、対して男子は74%が受けとった。

 

眼鏡を無料で使用できるようにしたことで、視力の悪い生徒の点数がかなり上昇した。一年もしないうちに、眼鏡の使用のおかげで視力の悪い生徒のテストの点数が、数学と理科では中国の標準偏差で0.16上昇した(表2A)。実際に眼鏡を受け取った生徒たちは、テストの平均点が標準偏差で0.22上昇した(表2B)。この効果は短期間であがっている。甘粛省で4、5年の子供たちに実施された同様のテストでは、さらにもう一年学校で学ぶことで、テストの点数が標準偏差で0.44上昇した。これは眼鏡の着用による効果はわずか4ヶ月の学習で、半年の学習に匹敵する効果があるに等しいことを示している。

 

3 政策への提言

 

視力の問題は生徒たちが学校で学ぶ妨げとなっているが、眼鏡が効果的な解決策となる。視力の悪い生徒たちのうちおよそ30%の生徒が述べている問題には、視力のせいで黒板がみにくい、宿題をしにくい、黄昏の明かりで勉強するときに目に痛みを感じるというものがある。こうした子供たちに無料で眼鏡を提供すると、8ヶ月後か9ヶ月後にはテストの点数がずいぶんと向上している。

両親の間違った認識のせいで、とりわけ子供たちの視力が適切なものであるという思いこみが、なぜ両親が子供たちに眼鏡を買わないでいるのかを大体説明している。母親はたいていの場合、子供たちの視力がよかったときに正確に測定された視力で考えようとする。その視力が並だったり悪かったりしても、子供たちは不正確でも良い視力を報告しようとしがちである。母親の意見が事を左右する。子供たちの視力が悪いということを信じている母親は子供のために眼鏡を買おうとした。だが、子供たちの視力の度合いよりも大切なことは、子供たちが眼鏡をかけるかということなのである。

両親が眼鏡をかけることをどうとらえているかということも、また重要である。眼鏡をかけている両親の子供は、眼鏡をかけることに抵抗がない傾向にある。

眼鏡は、学習結果を向上させるために学校が講じることのできる数少ない手段の一つである。ランダマイズ評価実験では、他にも授業の教材や教科書、教員の数を増やすなどの手段がテストの点数をあげるかどうか検証してみた。だが、こうした調査から判明したのだが、学習環境を大きく変えなければ手段を講じても、学習結果は改善されないということだった。

 

学習を改善することが判明したプログラムの中で、視力の悪い生徒に眼鏡を提供するというプログラムは、比較的簡単に実施することができるものである。子供たちの学習結果を改善するということは、難しい政策課題である。入学する子供たちを増やして、授業に出席する子供たちをふやす方法なら簡単に見つかるかもしれないが、こうしたところで子供たちが学習するとは保証していない。教室設備を変えたり、教師や生徒を励ますことに比べたら、視力を測定し眼鏡を提供するということは簡単に実施できる方法である。視力が悪いせいで苦しんでいる生徒にとって、眼鏡の提供は実り豊かな結果を生じるのである。(さりはま訳)

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