丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」下巻を少し読む
ー句点「。」のない文体が表しているものは?ー
以前、丸山先生が主宰する「いぬわし書房」のオンラインサロンで、「トリカブトの花が咲く頃」の文体について質問したことがある。
「トリカブトの花が咲く頃」には、読点「、」や感嘆符「!」は少なめながら存在する。
だが句点「。」は一箇所もない。
そして「トリカブトの花が咲く頃」以降の作品では、句点「。」が復活している。
「それはなぜなのでしょうか?」と質問した。
丸山先生の答えは、「作品のテーマや内容によってふさわしいスタイルに変えている」とのこと。
「トリカブトの花が咲く頃」は、なぜ句点なしのスタイルが相応しいのか……としばらく考えていた。
すると以下引用箇所の文が目にとまった。
生い茂った夏草が暑気のせいでうなだれ
長い年月を費やして強い光と熱をものともしない変種になったトリカブトの花が
不気味な艶やかさを放って咲き乱れ
おそろしく丈の長い陽炎がそこかしこで
くねくねした淫らな踊りを踊っているばかりだ
(丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」下巻75頁)
この作品は、トリカブトの花が咲き乱れる高原・巡りが原を舞台にしている。
本で読んでいると、一行一行がトリカブトの茎にも思え、高さの不揃いな行も野草が生えている様にも思えてくる。
本作品では余白は土、一行一行が植物の一本一本なのではないだろうか。
そうであるなら、句点「。」というものは不要なのかもしれない……あくまで私の勝手な想像ではある。
丸山先生が聞いたら苦笑されるかもしれないが。