丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」下巻を少し読む
ー死に神も生き生きと美しくー
巡りが原にやってきた瀕死の特攻隊崩れの兵士。瞽女の娘はシラビソの木の下でなんとかその命を救おうと試みる……。
「巨樹の形を無断拝借した」という表現に、死の気配すらも自然の一部分として受けとめ、少し忌々しく思いながらもユーモアを保ち、死にも美を感じているような作者の視線を感じる。
青年の上に奇怪な影を落としているのは
四季を通じて超然とした態度を保ち
耐えて逆境に打ち克つシラビソなどではなく
たぐい稀なる巨樹の形を無断拝借した
この世のいたるところで跳梁し
暗躍している
生を圧迫し
生者を葬り去ろうとしてやまぬ
額に無情のしわをきざんだ死に神にほかならない
(丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」下巻390頁)