さりはま書房徒然日誌2023年11月28日(火)

丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」下巻を少し読む

ー死に神も生き生きと美しくー

巡りが原にやってきた瀕死の特攻隊崩れの兵士。瞽女の娘はシラビソの木の下でなんとかその命を救おうと試みる……。

「巨樹の形を無断拝借した」という表現に、死の気配すらも自然の一部分として受けとめ、少し忌々しく思いながらもユーモアを保ち、死にも美を感じているような作者の視線を感じる。

青年の上に奇怪な影を落としているのは
 四季を通じて超然とした態度を保ち
  耐えて逆境に打ち克つシラビソなどではなく

たぐい稀なる巨樹の形を無断拝借した
 この世のいたるところで跳梁し
  暗躍している

   生を圧迫し
    生者を葬り去ろうとしてやまぬ
     額に無情のしわをきざんだ死に神にほかならない

(丸山健二「トリカブトの花が咲く頃」下巻390頁)

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