丸山健二「風死す」1巻を少し読む
ー無機質な言葉が詩的な衣をまとう不思議さー
引用箇所は、犯罪者にして詩人、末期癌患者の20代の心を語っている。
犯罪へと傾いていく心を語りながら、感情を表す言葉は少なく、むしろ反対の数学や物理と関係のあるような言葉「生の傾斜角度」「善の水準器」という言葉がイメージをふくらませ、不思議な詩的世界が現れている。
無機質な言葉が詩的に思えてくるマジックが、丸山文学の特徴の一つにも思える。
ちなみに写真は水準器(水平器)なるものだが、初めて見た。写真を見ると、ジワジワと殺意が高まる感覚が伝わってくる気がした。
何かにつけて空虚な弁解を発するばかりの さもしい心根が
いつしか知らず屈折した 生の傾斜角度をきちんと測る
冷酷無比にまで精度の高い善の水準器と定まったり
(丸山健二「風死す」1巻96頁)