丸山健二「風死す」1巻を少し再読する
ーかけ離れた語彙同士が見事にマッチングして描くイメージの愉しさ!ー
記憶について書かれた以下引用文。
科学的な語彙が文学的な言葉を思いがけずよくマッチングして、かけ離れたイメージが頭の中で不思議な一つの像を結ぶ気がする。
記憶を「混信して聞き取りにくい電波」「伝染する欠伸」に喩える不思議さがありながら、妙にしっくりしている。
「春眠覚めやらぬひととき」「匂い袋が放つ 控えめな陶酔感」という甘美な言葉が「脳幹まで運んでゆき」という意外な結末で終わるので、余計印象に残る気がする。
混信して聞き取りにくい電波のごとく入り乱れ
伝染する欠伸よろしく胸に去来する記憶を
さらなる逆巻きへ強引に引きずりこみ
春眠覚めやらぬひと時を錯覚させては
匂い袋が放つ 控えめな陶酔感を
じわりと脳幹まで運んでゆき
(丸山健二「風死す」1巻203頁204頁)