さりはま書房徒然日誌2023年12月23日(土)

丸山健二「風死す」1巻を少し再読する

ー同じようで違う〈煩悩の富者〉〈苦悶の智者〉

〈煩悩の富者〉とか〈苦悶の智者〉とか他には何があっただろうか……私のようにまったくそういうことを考えないで生きている者にとっては、相違を見い出すのが難しい。

でも最初の引用文の「歩行を好み しかも素足で少しずつにじり寄る」で、人間のような、でも人間とは違うような、不思議感を感じてしまう。

〈煩悩の富者〉に対する「俺」の反応を読めば、「少しも怯まぬ」「不服従の色」「つべこべ言わずに」「先制攻撃を食らわせて」と、どこか話に伺う丸山先生の学生時代を彷彿とさせる姿で、丸山先生の記憶が強く滲んでいる箇所なのではないだろうか。

二番目の引用文の「黄金色の陽光をかき分けて ふらつきながら接近してくる」「またもや心を奪われかけてしまい」という「苦悶の智者」は、この箇所からだけだと女性的存在にも思え、作者の青春時代の輝かしい存在であった女性にも思えてきた……。

歩行を好み しかも素足で少しずつにじり寄る
  かの〈煩悩の富者〉がおぼろげに認識され


  少しも怯まぬ俺は 不服従の色を滲ませて
    「つべこべ言わずに引っこんでいろ」
      と先制攻撃を食らわせてやりつつ
        付けこまれる油断がないかを
          素早く再確認するために
            自我の観察に努めて
              落着きを復活し



              黄金色の光線を
                味方にして
                  構える。


(丸山健二「風死す」1巻199頁)

具体案を出せぬうちに 黄金色の陽光をかき分けて
  ふらつきながら接近してくる〈苦悶の智者〉に
    案の定 またもや心を奪われかけてしまい


(丸山健二「風死す」1巻201頁)

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