丸山健二「風死す」1巻を少し再読する
ー文章のトーンも様々!ー
〈煩悩の富者〉〈絶望の覇者〉〈苦悶の智者〉まだどんな存在なのか、よく認識できていない。
ただ、こんな存在に遭遇したら嫌だ!と思った絶妙のタイミングで、「なるべく出くわしたくない それら三強に」と書かれているから思わず苦笑してしまう。
前半部分の重いトーンから一転、「先方がちょっかいを出してくる前に死んだ振りでもしよう」とどこかユーモラスになっている気がする。
よくイメージできないところはそのままにして、文章から吹いてくるいろんな風を受けとめる……のが、「風死す」を楽しむ方法の一つではないだろうか。
四六時中絶対者を演じたがる いちいち構ってなどいられない 〈煩悩の富者〉
憧憬に後続する夢物語を打ち壊す 人類共通の敵対者である〈絶望の覇者〉
ささやかなる営為の果てまでも 完全否定して止まない〈苦悶の智者〉
なるべく出くわしたくない それら三強に ぐるりを包囲された上に
組み敷かれてしまうという 明らかに手に余る窮地に陥った俺は
先方がちょっかいを出してくる前に死んだ振りでもしようと
溶岩大地のただ中で余命をしっかり保って微動だにせず
人間という生き物を神仏とは別な目で見ているそ奴らは
死に瀕した二十六歳を お手並み拝見といった目で
安易な観察を加えながら 気に障る態度を取り
(丸山健二「風死す」1巻213頁214頁)