丸山健二「風死す」1巻を少し再読
ー言葉の冒険をしているようでしっかりイメージが湧いてくる!ー
詩人でありガン患者である主人公の思いを、「言表行為」という固い表現を使うことで、一見、冷静に観察しているようにも思える。
でも「言葉同士が互いに排除し合って」というように、ここまで言葉の冒険ができるんだな……と思える部分もある。
二段落め。死者や死後の世界を語りながら、どこかユーモラスな印象も受けるのは「後を絶たない無数の死者たち」「これまで通り揃って似たような処遇」「次々に呑みこまれていった異空間の実体と実情」という思いもがけない言葉で、死後の世界の不思議さを語っているせいなのかもしれない。
三段落め。主人公が自分を語る「悪や善とのべつ境を接しつづけてきた欠点だらけの未完成なる自我」というシンプルで的確な言葉。
その後に続く「隈なく吟味などせぬ」という意外な言葉が心に残る。
名もなき一介の詩人が 語り手としての言表行為から取り逃がしてしまった 哀悼の辞は
苛々するほどまだるこくて 言葉同士が互いに排除し合ってばかりで 埒が明かず
後を絶たない無数の死者たちが これまで通り揃って似たような処遇を受けながら
次々に呑みこまれていった異空間の実体と実情がどうであっても少しも構わず
まず差し当たっての不可欠な心構えは 悪や善とのべつ境を接しつづけてきた
欠点だらけの未完成なる自我を隈なく吟味などせぬという固い決意であり
(丸山健二「風死す」1巻287頁)