丸山健二「風死す」1巻を少し再読する
ー魔術みたいにイメージが繋がっていく!ー
丸山先生が次々と切り出す思いがけないイメージが愉しい。
突拍子もない言葉と言葉が、丸山先生の文で繋がって、何だか世界が思いがけない方向に広がっていく爽快さがある。
「大型回遊魚」という少し獰猛そうな生き物の気泡から思い起こされるのは、流れるように生きている主人公。
「高層ビルの先端の揺れがわかる地震」「執拗な余震」という嫌なイメージから一気に「美しい暮夜」「きらめき」と美しく反転。
「絶壁の上に生えた高木」「するするとよじ登り」とまた揺れるイメージが復活。
「朝春の潮」「凄まじい怒号」と音が喚起されたところで、「胸に納め」最後に「微笑む」の三文字にパンチを感じる。
大型回遊魚の気泡を思わせる奔放な気性と
それに伴う現状に一も二もなく休んじ
高層ビルの先端の揺れがわかる地震と
執拗な余震がすっかり収まった頃
密やかに訪れた美しい暮夜が
まだ震える際にきらめき
絶壁の上に生えた高木に
するするとよじ登り
浅春の潮を眺め
凄まじい怒号を
胸に納めて
微笑む。
(丸山健二「風死す」1巻388ページ)