変わりゆく日本語の風景 ーういなやつー
文楽にしょっちゅう出てくる言葉の一つに「ういなやつ」がある。
「うい」は漢字で書くと「愛い」で、意味としては「健気な」という意味があって、年下を褒めるのに使われるようだ。
「近頃河原の達引』では、こんな風に会話文で使われている。
ムムでかした愛【う】いなやつ
(「近頃河原の達引 四条河原の段」より)
「ういな」という語感のせいだろうか? 他の言葉に置き換えても、しっくりしない気がする。「ういな」という言葉のリズムには、相手への愛情が滲んでいる気がする。
日本国語大辞典で「うい」の意味、用例などを調べると、以下のように書かれている。
好ましい。愛すべきだ。殊勝だ。けなげだ。主に目下の者をほめるのに用いる。
*浄瑠璃・本朝三国志〔1719〕一「うゐわかい者。出かした、出かした」
*浄瑠璃・義経千本桜〔1747〕二「今の難義を救ふたるは業に似ぬうい働」
*浄瑠璃・本朝二十四孝〔1766〕四「それを取得にお抱へなされて下されうなら、望んでなりと御奉公仕度きお屋敷。ホホ出かした愛(ウ)い奴」
ヨキ、ヨイ(好)の転か〔大言海〕。
(日本国語大辞典より抜粋)
浄瑠璃文に出てくる「ういなやつ」に滲む愛情は、どうも現代の日本語には見つけることが出来ない気がする。