丸山健二「千日の瑠璃 終結」1を少し読む
ー「私は黄昏だ」……黄昏が時に美しく時に冷酷に語るー
十月十七日「私は黄昏だ」で始まる。湖で亡くなった世一の祖父を偲ぶ老人に黄昏が声をかけたり、見つめたり……。
以下引用文。
「転げ落ち」るわけのない「嘆声」なのに、なぜかハッと納得する表現である。「転げ落ち」る筈も、「運ばれてゆく」こともない嘆声のシルエットが黄昏にくっきり浮かんでくる。
「親しかった友の来世への安着を知らせる波」という表現に、なんとも優しい心を感じる。
黄昏は見えないものも美しく見せながら、でも最後には「むさ苦しい死に損ないを一挙に払いのけるや」と冷酷でもある。
時に美しく、時に冷酷……と自然界がそのまま書かれている気がした。
すると
あらぬ方を見やっていた老いぼれの嘆声が
眼前の砂浜に転げ落ち、
めっきり視力が衰えた当人を無視して
沖合へと運ばれてゆき、
しばらくの後、
親しかった友の来世への安着を報せる波が
ひたひたと足元に打ち寄せる。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1)68頁