丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー少年世一のピュアな行動ー
十月三十一日は「私は義手だ」で始まる。
キノコ狩の名人を支えてきた義手。
だがマムシを見かけた主人は鎌を大事にするあまり、義手で毒蛇を殺す。
その心無い行動に義手は傷つく。
義手だからこそ、ストレートに発散される傷心ぶりも、心動かされるものがある。
主人公・世一はキノコ狩りの名人の冷淡さとは対照的な行動をとる。そのピュアな部分が、「おのれの腕と見比べ」「実の籠もった握手」「言葉ではない言葉で別れを告げ」という言葉に強くあらわされている気がした。
全身の揺れが片時も止まらぬ
奇々怪々にして気の毒な病人は
きめ細かい川砂を丹念に擦りつけて私を洗い、
ついで
自分のシャツでもって水気を拭き取り、
それからおのれの腕と見比べながら
実の籠もった握手を求め、
日当たりのいい岩頭の上にそっと置いて
言葉ではない言葉で別れを告げてから
泳ぐような身のこなしで去った。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」125頁)