丸山健二「風死す」1を少し再読する
ー思いもよらないイメージ同士がピッタリハマる不思議さ!ー
目に見えないもの、嫌なものをこういう形で表現するか……と新鮮な驚きがある。いつまでもズルズルと引きずっている感じ、どこか権威的な滑稽なところがあるイメージがピッタリ自己嫌悪と重なって、すごく印象に残る。これから映画やテレビドラマで大名行列の場面を見るたびに、この文を思い出してしまいそうだ。
大名行列の供揃いに似た形で連なり行く自己嫌悪のあれとこれを
すっぱりと断ち切ってから
(丸山健二「風死す」1巻512頁)
以下引用文。近づく死を語る主人公の言葉。「ぽっかり浮かび」「どうでもよく」「崩れ果て」「滅びてゆき」という言葉に、「死が差し迫って」いる感じがよく出ている気がした。遠くに何かを眺めながら、周囲が崩れてゆく……という感覚になるのかもしれない。
今さらおめおめと帰れぬあの郷里が
薄明の夜の片隅にぽっかり浮かび
未見の地と人はどうでもよく
胸に宿る実在の魂が崩れ果て
正義が永劫に滅びてゆき
悪魔の代弁者と化し
答弁は玉虫色で
死が差し迫って
肉の情念が
弱まる。
(丸山健二「風死す」1巻512頁)