丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー「北」からこんなに物語が生まれるとは!ー
「私は北だ」で始まる十一月十九日。なんと「北」が語り手である。もし「北」をテーマに物語を作れ、短歌を作れ……と言われたら、どんな文が思いつくだろうか……と自問自答してしまう。
丸山先生は「北」を語り手にして、人間社会の理不尽を撃ち、そして束の間の幻想を見せてくれる。
以下引用文。「理不尽」が「大津波のごとく どっとなだれこんだ」という表現に、すべての男たちが兵隊にとられた時代への丸山先生の怒りを感じる。
そして
年寄りと子どもを除いた男という男を
ひとり残らず兵士に仕立てずにはおかぬ
恐るべき理不尽は
東の方から
大津波のごとく
どっとなだれこんだ。
丸山健二「千日の瑠璃 終結1」199ページ
以下引用文。いかにも死の象徴らしい「北」が、「さまよえるボートを差し向けるから それに乗って遊びにくるがいいと唆す。」という言葉に表されている。童話の一節を読んでいるような気がしてくる箇所である。
この町で私のことを差別しない唯一の人間
少年世一は今わが主張を口笛で代弁し
その礼と言ってはなんだが
できることなら彼の辛過ぎる悲しみを取り去ってやりたくて
こっちへこないかと誘い、
さまよえるボートを差し向けるから
それに乗って遊びにくるがいいと唆す。
ところがとんだ邪魔立てが入り
丸山健二「千日の瑠璃 終結1」201ページ