さりはま書房徒然日誌2024年3月8日(金)

丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を読む

ー影は影でも語り方でずいぶん違ったものに思えてくるー

十一月二十二日は「私は影だ」と様々な影が語り手となる。どれも同じ影の筈なのに、其々の人生を色濃く滲ませ書かれているのが心に残る。

以下引用文。「長く且つ憂色の濃い」という言葉に、思わずどんな影なのだろうと想像してしまう。

私は影だ、

   へとへとにくたびれ果てて帰宅を急ぐ工員たちが
      砂利道の上に落とす
         長く且つ憂色の濃い
            くっきりとした影だ。


私をあたかも足枷のように引きずり
   浮かぬ顔で歩を進めるかれらのなかには


(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」210ページ)

以下引用文。「匍匐性の外来植物」「しぶとくてがっちりと」「大地をつかみ」「びくともしない」としつこいイメージを連ねて表現することで、影もずいぶんとたくましく違ったものに見えてくる。

しかし
   ともあれきょうの私はというと
      地力の衰えた耕地をびっしりと覆い尽くす匍匐性の外来植物のごとく
         どこまでもしぶとくてがっちりとまほろ町の大地をつかみ
            天下無敵の少年
               あの世一に踏まれてもびくともしない。


(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」213ページ)

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