丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー強風が迫ってくる書き方ー
十一月二十八日は「私は夜風だ」と「山国特有のめまぐるしい気圧の変化」から「生まれた気紛れな夜風」が語る。
以下引用文。山国の風が激しく吹く様子を描写している。
私なんかだったら「強い風がゴウゴウ吹きました」で終わりにしてしまうかもしれない箇所だ。
丸山先生は自然の中での暴風を描いてから、徐々に人間の暮らしへと風を近づける。そのため強風がだんだん近づいてくるような感覚を覚える。
また湖から木々へ、と広い場所から小さな物へと視点を移していくのも、風が近づいてくる感じをよく醸していると思う。
「死んだ枝」の次に「産院からほとばしる呱々の声」がくるコントラストも鮮やか。
「薬屋の看板を倒す」の箇所も「薬屋」で生のイメージを訴え、「倒す」で死につながる気がする。
最新の天気予報でも予測し得なかった私は
手始めにうたかた湖を隅々まで波立たせ
ついで
湖畔の木々をのたうち回らせてから
一挙に町を襲い、
街路樹にしぶとくしがみついていた枯れ葉を
一枚残らず吹き飛ばして
死んだ枝を振り落とし、
産院からほとばしる呱々の声を
地べたに叩きつけ、
近日開店の運びとなった
薬屋の看板を倒す。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」234ページ)
だが、そんな夜風に世一は怯むことなく「はったと睨み」対峙する。それは青い鳥オオルリのおかげだ。
以下引用文。「千日の瑠璃」の青い鳥は、なんとも気迫を感じる鳥ではないか。
後ろ盾となっているのは
超感覚的な力を具えているかもしれぬ
一羽の青い鳥だ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」234ページ)