丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ーなぜか色彩を感じる文ー
「私は本だ」で始まる十二月一日は、世一の姉が勤める図書館の本が、最近、ロマンス小説も読もうとしなくなった姉の心に起きつつある変化を語る。
そうした姉の心境を語る以下引用文。どの文も難解な言葉を使っている訳でもないのに、なぜか姉の心境がグラデーションの色彩となって見えてくる。なぜだろう。「退色した日常」「気持ちよく晴れ渡った日にあっさり首を吊った」「きららのごときまばゆい変化」という言葉から喚起される何らかの心象風景があって、文に色を感じさせてくれるのかもしれない。
たとえば
嫌でも生きてゆかねばならぬ退色した日常に
真っ向からぶつかってゆく覚悟を固めたのでもなければ、
たとえば
気持ちよく晴れ渡った日に
あっさりと首を吊った親友の流儀に倣おうとしたのでもない。
要するに
私のなかでしか起き得なかったロマンというやつが
もしくは
いつだって赤の他人の身の上にしか生じない
きららのごときまばゆい変化が
とうとう彼女の人生にも発生しつつあったのだ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」248ページ)