丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー初雪に重なる生の儚いイメージー
十二月二日は「私は初雪だ」で始まる。
「例年より二週間も早く」とあるが、丸山先生の住まわれている信濃大町の初雪の時期もそのくらいなのだろうか?早い初雪に修行中の禅寺の禅僧たちも心をかき乱され、自分たちの修行に疑念が生じる様子がどこかユーモラスに書かれている。
以下引用文。初雪にはしゃぐ世一の姿、「単純不動な鉛色の天空」、「誕生と死滅に挟まれた命の世界に響き渡り」という言葉で表現される一瞬の場面に、丸山先生のテーマでもある「誕生と死滅に挟まれた命」が初雪のイメージと重なって、その切なさ、素晴らしさ、儚さが伝わってくる。
片や世一はというと
ただもう無邪気に私を求めて止まず、
喜び勇んで飛び跳ねながら
単純不動な鉛色の天空に向かって
震えの止まらぬ腕をいっぱいに突き出し
恐ろしく素っ頓狂な声を張り上げ、
その朗々たる奇声は
誕生と死滅に挟まれた命の世界に響き渡り、
そんな彼の並外れた神気の強さに圧倒され
恐れを成した私は
直ちに融けて消えた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」253頁)