丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ーエスカレートする喧嘩が目に浮かんでくるようー
十二月三日は「私は喧嘩だ」で始まる。
以下引用文。「せいぜい意見の相違」から勃発した二人の男たちの喧嘩が、あっという間にエスカレートしてゆく様が、「罵り合った」「すさまじい殴り合い」「どこか滑稽な取っ組み合い」と目に浮かぶように、丁寧に書かれている。
「ドブネズミの縄張り争いを彷彿とさせる」という言葉にも、「一興に値する光景」という言葉にも、どこか距離を置いて眺めているような心が感じられる。
よほど虫の居所が悪かったのだろう
いい歳をしたかれらは
束の間罵り合ったかと思うと
すぐさま殴り合いへと移行して
凄まじくもどこか滑稽な取っ組み合いへと転じ、
互いに鼻血を流して路上をごろごろ転がる様は
ドブネズミの縄張り争いを彷彿とさせる
一興に値する光景だった。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」255ページ)
以下引用文。喧嘩している風景に世一や犬を点在させ、「折れたばかりの血の付いた前歯を奪い合った」とその姿を書くことで、ケンカの風景がますます賑やかなものに感じられてくる。
徘徊が生きる縁のすべてとなっている病気の少年などは
小躍りして喜び
犬と競って
折れたばかりの血の付いた前歯を奪い合った。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」257ページ)