丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー今では失われたボーナスをめぐる風景ー
十二月十五日は「私はボーナスだ」で始まる。世一の父と姉のボーナスを囲む家族の風景が語られてゆく。しかも「小銭に至るまで」現金だ。そして炬燵の上に広げられる。
昔、口座振り込みでない人は、現金でボーナスをもらっていた……とはるか昔の勤務先での光景を思い出す。
引用文では、使い道について家族会議が開かれている。今の時代では失われつつある風景のような気がして、なんとも温かい気持ちがこみあげてくる。
世一の父と姉の心を去年と同じくらいに弾ませ
一年の遣りきれない疲れを癒す
待ちに待った暮れのボーナスだ。
一旦世一の母の手に渡った私は
そのあと
小銭に至るまできちんと炬燵の上に並べられ、
例年通り
使徒について
名ばかりの家族会議が開かれた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」302ページ)
以下引用文。姉は薪ストーブを七万円で買う約束をしてきた……と言い、母親と言い争いになる。おそらく好きな男がつくるストーブを申し込んだのだろう。そんな母親と姉の諍いには知らんそぶりの、父親と世一の様子が見えてくる文である。
父親は我関せずといった態度で酒をちびちびと飲み、
世一はというと
鼻息で私を吹き飛ばそうと大真面目に頑張っていた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」305ページ)