丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ーユーモラスのあとの悲哀だから心に沁みるー
十二月二十五日は「私はケーキだ」で始まる。半額にしても買い手のつかないクリスマスケーキが語る。
以下引用文。ケーキに「私の寿命をあと一時間と区切り」「あっという間に五十九分が過ぎ去り」と語らせるところにユーモラスなものを感じる。
さらにクリスマスケーキが見たケーキ屋の主人も「死刑執行人のぼってりした手」と何ともユーモラスに語られている。
世一に売れ残りのケーキをやろうとラッピングまでしたところで、やはり思い留まってゴミ箱に捨ててしまう。
そのあとで店を訪れた世一と母親が、高いケーキを見て買わずに帰る遣る瀬なさ。
ユーモラスな場面の後なので、その悲哀がじわじわ沁みてくる感じがある。
菓子屋の主人はさんざん舌打ちをしてから
私の寿命をあと一時間と区切り、
すると
あっという間に五十九分が過ぎ去り、
とうとうガラスケースが開けられて
死刑執行人のぼってりした手がみるみるこっちへ伸びてきて、
あわやというときに
糸のように細い彼の目が
ショーウィンドーの向こうを行く
青い帽子をかぶった少年の姿を捉えた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」342ページ)