丸山健二「千日の瑠璃 終結1」を少し読む
ー作者の理想像にも思えるストーヴつくりの青年ー
十二月二十四日は「私は口実だ」で始まる。
世一の姉が一方的に好意を抱くストーヴつくりの青年。姉がその青年に近づくための「口実」である。ストーヴつくりに没頭する青年の背後から、注文したい旨を伝えるが気がついてもらえず……。
以下引用文は、その後の展開である。高倉健が演じたら決まりそうな場面だと思いつつ読む。もしかしたらストーヴつくりに浸る青年は、丸山先生の理想とする姿なのかもしれない。
ガスバーナーの炎の動きは、たしかに「火花が織り成す抽象模様の次元」という描写がしっくりくると、思いもよらない表現に感心する。
しばらくして気を取り直した彼女は
いつでもかまわないと言い
気長に待つと言ってから
相手の正面に回りこんで名乗ろうとしたとき、
男は「わかった」とひと言呟いて
ふたたび炎の色を青に戻し、
火花が織り成す抽象模様の次元へ没入して
二度と客に注意を向けななかった。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結1」341ページ)