丸山健二「千日の瑠璃 終結2」一月十一日を読む
ー一つの文に過去から現在、恍惚から恐怖がすっきりおさまっている!ー
一月十一日は「私は秘密だ」で始まる。役場の休憩時間と冬の別荘を利用して逢瀬を重ねる男女の「秘密」が語る。
以下引用文。逢瀬を終えて役場に戻ろうとした二人は、思いもよらず上司の車に遭遇する。
「串刺しにされ」という言葉から緊張感と恐怖が迫ってくる。
「両人の一抹の寂しさが付き纏う粋事がみるみる恐怖に染まり」は、一つの短い文の中に過去から現在、恍惚から恐怖が描かれていて見事だなと思った。
「秘密」自らが、「かくして私は 隠れもない事実と相なり」と変化を語る箇所も、そんなことはありえない筈なのに納得させる不思議な言葉の運びがある。
残念ながら手遅れで
思わぬ相手の視線に串刺しにされ
両人の一抹の寂しさが付き纏う粋事がみるみる恐怖に染まり、
かくして私は
隠れもない事実と相なり、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」12ページ)