丸山健二「千日の瑠璃 終結2」一月十七日を読む
ーありふれた風景を変えてしまう力ー
一月十七日は「私は桟橋だ」で始まる。昨日の「十字路」もよかったが、この箇所も好きな箇所である。私はありふれた日常風景に詩情を感じ、別の意味を感じる心が気になるらしい。
以下引用文も、場面としては湖に突き出た桟橋で不自由な世一が遊んでいる……ただ、それだけの場面である。
だが、そんな風景に次元を超えた世界への憧れを込める作者の視点が好きである。
うたかた湖の南側の岸辺から北の沖へ向かって
もしかすると来世へと繋がっているかもしれぬ
是非そうあってほしい
不必要なまでに長い桟橋だ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」34ページ)
以下引用文。桟橋にいる世一はもう不自由な少年ではなく、妖精のように自然と語り戯れる存在である。そんな風に視点を変える力が「千日の瑠璃」の魅力のようにも思う。
危なっかしい足取りで突端まで進み出て
陶酔の面持ちを深め
今現在を吹く風の精髄を全身でしっかりと感知し、
物怖じせずに
一部の隙もない自説を得々と述べる波音に
そっと耳を傾ける。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」35ページ)