丸山健二「千日の瑠璃 終結2」一月二十六日を読む
ーありえないモノの視点で語るからこそー
一月二十六日は「私は忠告だ」で始まる。昼休みを利用して空の別荘で逢引きをしている町役場の職員たち。そんな二人に気がついた上司(世一の父親)が男を呼び出して与える「忠告」が語る。スキャンダルが大好きな田舎の住民の好奇心に晒されてもいいのか、自分も面白がっているのだから……などと忠告する。
「忠告」が情景を描写する……という有り得なさがなければ、こうした場面は安っぽい陳腐な場面になりがちではないだろうか……と以下引用文を写しながら思った。
もし作者が語るような形で「そんなことで色を着けるしかない人生」とか「男の干物になり下がっている」とか「面白くもなんともない仕事」と書いてしまえば、そこには反感が芽生えるかもしれない。だが「忠告」が語るという形だからこど、何となくアイロニーもユーモアも感じられるのではないだろうか。
目を伏せて頷く部下の肩にそっと手を置いて
気持ちはわかると呟き
そんなことで色を着けるしかない人生だものと言い、
定年まで勤め上げて
退職金や年金をもらう頃には
いっさいの色恋沙汰と縁がない
男の干物に成り下がっていると
きっぱり結論付けた。
そして
いい歳をしたふたりは
午後の面白くもなんともない仕事へと戻っていった。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」73ページ)