丸山健二「千日の瑠璃 終結2」一月二十七日を読む
ー「風死す」を思わせる書き方ではー
一月二十七日は「私は境界だ」で始まる。目には見えない「境界」によって、あらゆるものを区切る……そうすることで浮かんでくる様々な存在が、わずか四ページの中におよそ41にわたって書かれている。
語を、短い文を連ねることで境界で区切られる姿をあらわそうとする書き方は、最後の長編小説「風死す」にもつながるのでは……と興味深く読んだ。
そして41は素数である。もしかしたら素数を森羅万象を律するリズムにして、まほろ町の様々な境界を描こうとされたのだろうか。
私は境界だ、
言ってしまえば有象無象の集まりから成るまほろ町を
入り組んだ線でもって複雑に区切っている
けっして目には見えない境界だ。
分けつづけ
分けずにはいられない私は
生者と死者を
死者と統治者を、
肥立ちのいい赤ん坊を背負っていそいそと立ち働く若妻と
嬌態のすっかり板に付いてしまった淫をひさぐ女を、
堅忍不抜の精神で日夜勉学に勤しむ若者と
家名を著しく落として悪友の下宿に転がりこんだ放蕩児を
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」74ページ)