丸山健二「千日の瑠璃 終結2」一月二十八日を読む
ー反復されることで本心からの叫びに思えてくるー
一月二十八日は「私はビデオテープだ」とレンタルビデオ屋から大学教授夫妻のもとへと貸し出されたビデオテープが語る。観た後、大学教授夫妻は内容について散々けなす。
以下引用文。けなした後で大学教授の妻が野鳥への愛を語る場面。
「名画であろうと名作であろうと」が繰り返され、「たとえば」が反復されることによって、野鳥への賛歌が大学教授の妻の心の底からの思いにも聴こえてくる。
妻の言葉に思わず納得したところで聞こえてくるのは、世一のオオルリを真似たさえずり。絶妙なタイミングに、この少年は人間なのだろうか、それとも……と世一が人間を超えた存在に思えてくる。
窓の向こうに広がる
一面雪に覆われた雑木林に目を移し、
いかなる名画であろうと名作であろうと
結局のところ
野鳥一羽分の感動すら与えることができず、
傑作中の傑作というのは
たとえばオオルリであり
たとえばクロツグミであり
たとえばミソサザイであり
それを超えるものはないと
言い切った。
ちょうどそこへ
オオルリのさえずりを上手に真似る少年が通りがかった。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」81ページ)