丸山健二「千日の瑠璃 終結2」二月四日を読む
ー缶バッジが語れば、偉そうな物言いも何故か気にならないー
二月四日は「私はバッジだ」と、まほろ町に駆け落ちしてきた娘のセーターを飾る「青い鳥をかたどった 派手なバッジ」が語る。
以下引用文。バッジが実は自分が娘の行動を決めている……と語る。バッジにズバッとありえないことを宣言させるおかげで、普通に書いていたらモタモタしてしまいそうな余分な贅肉が削ぎ落とされスッキリしている気がする。
バッジという実に庶民的なものが、娘の行動を決める神のごとき存在……という設定も丸山先生らしいと思う。
彼女は私を気に入っているばかりか
信頼しきっており、
駆け落ちを決意させたのも
実はこの私というわけで、
まほろ町に住むことも
スーパーマーケットで働くことも
全部決めてやった。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」106ページ)
以下引用文。スーパーの先輩(世一の母親)と娘をバッジが観察する。もし、ここで作者が語っているなら「なんて失礼な」と思うかもしれないが、バッジが語っていると思うと不思議と気にならない。
どんなに厚化粧をしたところで
生活の疲れを隠せないその先輩は
素顔でも溌剌としている後輩をつかまえ
冷ややかな物言いで
「それ、なんて鳥なの?」と訊き、
鳥の名を度忘れした娘は
とにかく幸福を招く鳥だと答えた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」107ページ)