丸山健二「千日の瑠璃 終結2」二月五日を読む
ーパラレル・ワールドは救いか、絶望か?ー
二月五日は「私は星雲だ」で始まる。蠍座の星雲は、世一の飼っているオオルリの囀りを通して遥か彼方のまほろ町のことをよく知っていると語る。
丸山先生は以前、量子力学の観点からパラレルワールド、もう一つの世界は存在する……そんなことを話されていた。以下引用文にも、そんな丸山先生の考えがよく現れていると思う。
そして
私のほうもまた
自身のどこかにいる青い鳥が
そっくり同じことをしており、
つまり
私のなかにもまほろ町が在り
少年世一が存するのだ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」111頁)
以下引用文。己の星雲がある世界から、世一のいるもう一つの世界へ……そんな不思議なやり取りが書かれている。
くどくどとストーリーが展開するのを楽しむのでなく、もうひとつの世界を感じる大きな視点に気がついてハッとする。そんな楽しさが「千日の瑠璃」を始めとした丸山作品にはあるように思う。
その分、ストーリーを楽しんだり、教えを請う人には不向きなのかもしれないが……。
もう一つの世界でも私は「千日の瑠璃」を読んでいるのだろうか……そんなことを思うと、こちらの世界の諸々の不安が消えていくような気がする。パラレルワールドを信じることは救いになるのか、それとも同じ苦労をしていると絶望を深めるだけなのか?「千日の瑠璃」にその答えがあるのかもしれない。
きょうもまた私は
そっちのまほろ町の
そっちのオオルリに対して
詳細な報告をし、
それから
こっちの世一が岸辺に佇むだけで
うたかた湖の深浅を正しく把握できるまでに
成長した旨を伝え、
はてさて
そっちの世一はどうかと尋ねてみる。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」112頁)