丸山健二「千日の瑠璃 終結2」二月十日を読む
ーヒトでない者の声が聞こえてくる「 」ー
二月十日は「私は氷だ」と、うたかた湖を隅々まで埋め尽くした氷が語る。
その氷の上で世一が「ときおり つつうっと滑ったり」という様子が微笑ましい。
以下引用文。そんな世一に警告しようとする「氷」。「軽すぎる体」「重すぎる魂」と氷が語る世一の姿は、人間界の常識を離れた姿にも思えてくる。
その都度私は不気味な音を発して警告を与え
軽すぎる体のほうはともあれ
あまりに重過ぎる魂まではとても支えきれないと
そう言ってやり、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」136ページ)
以下引用文。「氷」が心配するように湖の中に落ちることなく無事に帰ってゆく世一。
「氷」はふた言だけ呟く。
丸山作品では「 」の部分は普通の会話ではなく、天から響いてくる言葉のようでもある。
以下も「運」「不運」がコントラストをなして、やはり人間ではない者の言葉に聞こえてくる。
「おまえって奴はどこまで運に恵まれているんだ」と
そう言ってから
「そのくせ、どこまで不運な奴なんだ」とづづけ、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」137ページ)