丸山健二「千日の瑠璃 終結2」二月十二日を読む
ー同じ望遠鏡から覗いた世界なのにまったく違って見える不思議さー
二月十二日は「私は望遠鏡だ」で始まる。世一の父親がゴミ捨て場からそっと拾ってきて、ピカピカに磨きあげた望遠鏡が語る。
同じ望遠鏡に目をあてているのに、世一の父親が覗く世界と世一が見つめる世界は全く異なる印象を受ける。見つめる人の視点、心の持ちようで、こうも異なるものだろうか。
以下引用文。世一の父親が覗いた世界。私の目に映る世界のようで、思わずため息をつきたくなる。
私をどの方角へ向けようと
そこにはすでに知られている現実が存在するばかりで、
もしくは
辟易するおのれの五十数年間が
呆れ返るほどだらしない格好で横たわっているだけで、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」139ページ)
以下引用文。冬の厳しさを描きながらも、世一が望遠鏡を通して見つめる世界は宇宙的神秘さのある世界。「虚無そのものの広がり」という捉え方が、何となく丸山先生らしいと思ったり、こういう世界を感じたいと反省したりもした。
最初に捉えたのは
灰色がどこまでも広がる
実に味気ない冬の空間で、
鳥が飛んでいるわけでもなければ、
雲が流れているわけでもない、
なんの変哲もないというか
虚無そのものの広がりにすぎなかった。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」140ページ)