丸山健二「千日の瑠璃 終結2」二月十三日を読む
ー自然描写に重ねる思いー
二月十三日は「私はハーモニカだ」で始まる。刑務所を出所して鯉の世話をしながら暮らす世一の叔父が吹き鳴らすハーモニカだ。
以下引用文。まほろ町の夕暮れから夜にさしかかる冬の描写が、丸山先生らしい奥行きのある表現に思える。自然を見つめながら、この世と別の世について思いを巡らす丸山先生の思いも伝わってくるようで好きな箇所である。
「希薄な存在感の太陽」はいかにも冬らしく、それでいて別の世界を示しているようにも思える。
「然るべき方向」も、いったいどの方向を指しているのやら……と考えてしまう。
「漠とした落日を漫然と迎える」というまほろ町も、人の生き方を暗示しているようである。
「いかにも啓示的な闇」とは?と考えてしまう。
自然描写に重ねる思いがあるようで、それを考えながら読んでいくのが面白い。
やがて
希薄な存在感の太陽が然るべき方向へと傾き、
まほろ町が漠とした落日を漫然と迎えるや
いかにも啓示的な闇が
地の底から湧き上がってくる。
すると
厳冬の夜が私をたしなめて
もうよさないかと言い
そろそろやめてはどうかと言い、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」143ページ)