丸山健二「千日の瑠璃 終結2」二月十四日を読む
ー風船一個を語るにも語り口が印象的ー
二月十四日は「私は風船だ」と「くたくたになって山と湖の町へ辿り着いた 青い風船」が語る。
私なんかがこの風船を語るなら、「空色の丸い風船」とか安直にすぐ書いてしまいそうだが、丸山先生はそうではないと知る。
以下引用文。丸山先生は、風船の青い色を「〜のようだ」と語るのではなく、「〜にも似ておらず」と否定の形で語る。「水」「空」「死に顔」「オオルリ」にも似ていない青って、どんな色なのだろう……と読んでいる方の心にぽっかり「想像してごらん」という声が谺する穴をあけられる気がする。
私の色は
水にも空にも
そして
死に顔にもオオルリにも似ておらず、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」146ページ)
以下引用文。風船の動きを「彼女の体熱と町そのものが暖めた大気によって上昇し」と語り、また「人魂を思わせる形状を保ったまま」と描写することで、風船がただの物からどこか人間らしさを帯びて感じられてくる気がする。
彼女の体熱と町そのものが暖めた大気によって上昇し
人魂を思わせる形状を保ったまま
一軒家の方へと引き寄せられて
二階の部屋の窓枠に引っかかる。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」148ページ)