丸山健二「千日の瑠璃 終結2」二月二十八日を読む
ーあたえる者へー
二月二十八日は「私はすき焼きだ」で始まる。まほろ町の湖畔の旅館・三光荘の女将と長逗留の女客が食べていた「すき焼き」が語る。
以下引用文。二人の女に招かれて、世一も一緒にすき焼きを食べる。
何も持っていないし、食べる動作さえ苦労する世一なのに、一緒にいると二人の女は「希望とも言えぬささやかな希望を感知」して、「心のあちこちに穿たれてしまった風穴が 一時的であるにせよ 確実に埋まってゆくのを覚えた」のである。
何も持たない者、世から疎まれる者が与える者になる一瞬を信じているし、そんな瞬間を見い出すのが丸山作品の魅力だと思う。そして、そんな視点は特殊学級に入れられてしまった小学校時代、特殊学級の仲間たちとの交情から生まれてきたものではないだろうか。
ひっきりなしに身をよじりながら私を相手に格闘する
健気な少年をつくづく眺めているうちに
ふたりの女はなんだか不思議な心持ちになり、
つまり
希望とも言えぬささやかな希望を感知し、
生きるために余儀なくした陰気な行為のあれやこれやに蝕まれて
心のあちこちに穿たてしまった風穴が
一時的であるにせよ
確実に埋まってゆくのを覚えた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」203頁