丸山健二「千日の瑠璃 終結2」三月一日を読む
ー丸山作品の「 」の不思議さー
三月一日は「私は骸骨だ」で始まる。まほろ町立中学校の理科室の教材用骸骨が、こっそり忍び込んできた世一を相手にする。
以下引用文。丸山先生は会話でストーリーを進める書き方を大変嫌っている。たしかに他の丸山作品と同様に以下の会話も、形こそ「 」で括られて、一見会話の形はとっている。
でも日常会話ではなく、どちらかと言うとアフォリズムのような趣きがある。丸山作品で「 」が出てくると、だらだらと会話でストーリーが展開するのではなく、ピリッと閃く丸山先生の思いに触れる気がする。
いかにも気怠げな口調で
「おまえ、誰?」と訊き、
そこで私は
わざと無念やる方ない表情を作り、
「おれか、おれはおまえだよ」と
素っ気なく答えた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」207頁)