丸山健二「千日の瑠璃 終結2」三月十一日を読む
ー「焦燥」が語ればー
三月十一日は「私は焦燥だ」で始まる。世一の姉に取りついた恋の焦燥が語る。
以下引用文。焦燥の語る言葉。姉が自分の言葉で語ったりすれば、あまりにも生々しくなりすぎるかもしれない。作者の視点で語れば、冷たく感じられるかもしれない。
でも「焦燥」という有り得ない視点で語ることで、娘の様子が哀れにも、コミカルにも思えてくる気がする。
「これまでおまえに興味を示した男がひとりでもいるのかな?」と訊き
「いなければ、これからだって絶対に現れないぞ」と決めつけ、
その意味においては
弟の方がまだましというもので、
オオルリという連れ合いがいるばかりか
住民のほぼ全員に関心を持たれており
その意味においては幸福な人生だと
嫌みたっぷりにつづける。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」249頁)