丸山健二「千日の瑠璃 終結2」三月十三日を読む
ーフィルムにはない文章表現ならではの魅力ー
三月十三日は「私はカメラだ」で始まる。まほろ町に新婚旅行に訪れた夫婦は、通りがかった世一に写真を撮ってくれと頼む。
以下引用文。世一が体を揺らしながら写した風景。フィルムに摂りこまれた風景を映像で見れば一瞬で過ぎ去ってしまう。
でも、こうして文で描かれると一つ一つの情景が別々に心にたちのぼってくるようで、文章ならではの表現の魅力を感じる。
しかしながら
私がフィルムに摂りこんだのは
着水に失敗して無様につんのめる
経験不足の若い白鳥と
ボートを浮かべてワカサギ釣りを楽しむ隻腕の男、
ほかには
結婚式までしか考えていなかった男女の
頼りない笑みの底にこびり付いている
一抹の不安のみだ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」255頁)