丸山健二「千日の瑠璃 終結2」三月二十日を読む
ー「燻されたタヌキ」という言葉に場面を想像してしまうー
三月二十日は「私は恥だ」と「恥を恥とも思わぬ若者が 今後の身の振り方について かなり真剣に考えているときに初めて知った」恥が語る。
以下引用文。恥に詰られた若者が突拍子もない行動に出る様子がユーモラスに書かれている。
すると彼は
燻されたタヌキのように
堪らず土蔵の外へ飛び出して
しどろもどろで何やら言い訳めいたことを呟き、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」284頁)
以下引用文。「生き恥」をテーマに踊る青年と一緒に世一も踊り出す。二人して踊っているうちに、恥というものがどうでもよくなってしまう。
踊る部分のあたりは平仮名で書かれている文字が多いせいか、青年と世一が無邪気に踊る場面が自然と浮かんでくる。
後半、恥が自然消滅してゆく箇所は心なしか漢字が多く、恥というものが概念であることが伝わってくる気がする。
すると
そうやってかれらがいっしょに踊る最中
私はいつしか自然消滅の道を辿り、
要するに
さほど大した価値観ではなくなって
無の底へと堕ちて行った。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」285頁)