丸山健二「千日の瑠璃 終結2」三月二十五日を読む
ー元兵士の悲惨ー
三月二十五日は「私は夕闇だ」で始まる。
以下引用文。「まほろ町にひたひたと押し寄せる いつもながらの」夕闇だけを友とする男。その男が背負う戦争の体験を、丸山先生は以下のように語る。
戦争から帰ってきた元兵士の心の悲惨、戦災孤児の悲惨をずっと書いてきた丸山先生らしい箇所である。
家々を焼き払い
無辜の民を大量に屠った
異邦の地における言語道断の日々と
幾度殺しても飽き足らぬおのれを
しっかりと再確認する。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」304頁
以下引用文。そんな戦争の記憶をいまだ心に引きずる男に、夕闇はこう諭してみる。いつまでも癒えることのない戦争の傷というものをあらためて思う文である。
ついで
旧時を知る人も少なくなったのだから
そろそろこの辺りで自分を赦してやったらどうかと
真心を込めて説得しても、
きのうと同様
なんの効果も認められない。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」304頁
以下引用文。少年・世一が現れ、銃声の口真似をしてみせる場面。口真似の銃声に男はよろめくが、その顔に深い安堵が浮かんでいた……という描写に、生きて帰ってきても死ぬまで戦場の記憶から解放されない元兵士の悲惨を思う。
私のなかへ逃げ込もうとする男の背中を狙って
口真似した銃声をだしぬけに浴びせかけ、
すると
撃たれた相手は大きくよろめいて私に倒れかかり、
その一瞬の顔には
深い安堵の色が浮かんでおり、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」305頁