丸山健二『千日の瑠璃 終結2』四月八日を読む
ーちっぽけな蟻の目がとらえるこの世ー
四月八日は「私は蟻だ」で始まる。
以下引用文。貸しボート屋の親父の頭に登った蟻が目に(?)する風景は、生、勤勉な仲間たち、その仲間が世一に踏み潰されるという不条理……が書かれ、この世の姿が凝縮している文のように思った。
そんな男の頭のてっぺんから遠く沖を見晴らす私は
薫風にそよいで光るヤナギの若葉にうっとりと見とれ、
ひたすらまばゆい湖面では
数珠繋ぎにされて出番を待つボートが
うねりに合わせて揺れ
互いに擦れ合ってのどかな旋律を奏でていた。
そして地面では
存在のなんたるかも知らずに
せわしなく動き回る私の仲間たちが、
どう頑張っても真っ直ぐに歩けない少年によって
次から次へと踏み殺されていた。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」361頁)