丸山健二「千日の瑠璃 終結2」四月十四日を読む
ー天真爛漫な心ー
四月十四日は「私はたも網だ」で始まる。
以下引用文。世一は目が粗くて使い古された「たも網」の欠点に気がつかず、「波が運んでくる銀色の魚影を見つけるたびに 性懲りもなく さっと私を」くりだす。
魚を捉えることができなくても充たされてゆく世一の心を語る文の、「ぴちぴちと跳ねる銀鱗の数」や「幸福の青い色を差し招く」という表現や、銀や青の色、鱗、風が、世一の心の邪気のなさ、天真爛漫を表しているようで心惹かれた。
それでも世一の狩猟本能は
充分に満たされて
胸のうちでぴちぴちと跳ねる銀鱗の数が次第に増してゆき、
しまいには
幸福の青い風を差し招くほどになり、
ともあれ
私の本音としては
どんな雑魚でもかまわないから
せめて一匹くらいはなんとかしたいのだ。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」382頁)