丸山健二「千日の瑠璃 終結2」四月十八日を読む
ー正しさの幻想を吹き飛ばしてー
四月十八日は「私は紙芝居だ」で始まる。「辻公園の片隅で 年に数回ほど 老いぼれたデブの歯科医が道楽で演じる紙芝居」が語る。
以下引用文。集まってきた子供達に「甲斐甲斐しく立ち働く者がけっして無駄骨を折ることがないことや 金銭に目が眩んだ者が幸福になれた試しがないこと」を教える紙芝居は、己の正しさへの自信に満ち溢れている。
要するに私は
この世は生きるに値すると
そうきっぱり言いきっており、
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」400頁)
以下引用文。己の正しさを信じている紙芝居だが、少年世一は病にもかかわらず嘲笑を投げつけてくる。
信念というものの偽善を思わずにいられない場面である。
外見以上に手強そうな彼は
歯などいくら磨いても虚しくなるほどの
重くて厄介な病に全身を蝕まれており、
にもかかわらず
出会うたびに
石礫のごとき嘲笑を投げつけ、
にもかかわらず
出会うたびに
石つぶてのごとき嘲笑を投げつけ、
げらげらと笑われるたびに
畏縮へと落ちこんでゆく。
(丸山健二「千日の瑠璃 終結2」401頁)