丸山健二『千日の瑠璃 終結3』四月二十九日を読む
ー「時と共に直進する」ー
四月二十八日は「私はカラマツ林だ」で始まる。
以下引用文。カラマツ林の下で元大学教授夫妻は子供たちの四十年前を思い出すうちに、回想に耐えられなくなってしまう。
やがて夫妻は
回想の重さに気づき
それに耐えられなくなって
私から離れて行ってしまった。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』45頁)
以下引用文。元大学教授夫妻が過去にとらわれ、その重みに耐えられなくなっている姿とは対照的に、世一には過去もなければ、未来もなく、動物のように現在だけを生きている。時の感じ方の違いも、そういう様子を「現在と共に直進する」と表現しているところも面白い。
ほどなくして今度は
振り返ることも
先を見ることもしないで
現在と共に直進する
青尽くめの病児が訪れた。
(丸山健二『千日の瑠璃 終結3』45頁)